2.ローマ字教育の混乱


 日本人英語五十音図ローマ字教育カタカナ外来語英語教育

日本語のローマ字表記方法は未だにすっきりしません。小学校で習うのは主として訓令式ですが、街角で一番多く見られるのはヘボン式です。
そのいずれでもなく、日本式でもない迷作ローマ字も見られます。そんな混乱は不適切なローマ字教育の結果で、日本人を英語下手にさせる原因の一つです。
 某有名野球選手が自分の名前を、間違ったローマ字表記のまま数年間背中につけていました(今は訂正されています)
これは氷山の一角です。 多くの人が迷うような教育方法が悪いのであって、その選手がどうってことではありません。個人攻撃をするつもりは全くありません。


ここに出た三方式の違いを正確に知っている日本人は少ないのでは?


国際化を推進すべき時代に、いまだに国語だけしか視野にない人たちが、表記と発音の食い違った訓令式や、日本式を推進している団体があり、文部科学省もさわらぬ神にたたりなしと、何十年も放置しているようです。
 (2003.10.02)このページを書いて1年3ヶ月になりますが、どのローマ字を教えるかは今も議論が続いている問題です。
それが日本人の発音音痴、外国語音痴の元凶となっていると思います。



上述のごとく、パスポートの公式ローマ字である”ヘボン式”以外に、主なものとして訓令式と日本式があります。
訓令式と日本式では、日本式の方がより整った形式である反面、より発音に不忠実です。 (例:日本式 da di du de do 訓令式 da zi zu de do  参考: 三方式ローマ字の主な違いの表)。

いずれにしても、どちらもヘボン式に比べ、うんと発音に不忠実です。訓令式はせっかく di du を発音に合わせようと変えたのに、ザ行は残念ながら、「ジ」だけがz系の音ではありません(したがって zi はまちがい:訓令式は日本語の発音を正確に知らない人が作ったに違いないと思われる〈日本人だから正しく発音は出来ただろうが、一般の日本人と同じく、どう発音しているかは自覚出来ない人たち〉)。
煩雑になりますので、以後、訓令式とヘボン式のみの比較とします。

訓令式ローマ字の形式はかなり整っていますが、内容(発音)が不揃いです。ヘボン式の形式は不揃いですが、発音との対応関係は格段に優れています。

訓令式とヘボン式を比べますと、たとえば
訓令式  ta ti  tu  te to タ ティ トゥ テ ト  と読ませず
              → タ  チ  ツ  テ ト  と無理に読ませる
              ヘボン式 ta chi tsu te to タ チ ツ テ ト  そのまゝ日本語発音で読めばよい。そして        ti tu も  →   ティ トゥ    と、そのまま正確に読めばよい
ほとんどの国の言葉は、何百年も経てば発音が不揃いになります。
五十音図に不揃いがあるのは、作られてから千年も経っているのですから当たり前のことです。
しかし、表音文字であるローマ字の書き方を千年前でなく、せっかく今決めるのですから、五十音図のローマ字が不揃いにならないようにと言う理由で、訓令式のように複数の音を1つの文字(上ではタ行の t)に割り当てる無理などをしないで、現実に合わせて決めるべきです。
ヘボン式反対論者は、ヘボン式は英語方式だから、英米に偏っていると非難しています。万国共通なのは国際音声記号しかありません。いまや、英語はそれを母国語とする国の言語であるだけでなく、グローバルに最も通用しやすい国際語としての性格も持っています。

訓令式は、表音文字としてのアルファベットの特性を殺しています。
彼らが音韻論というのを持ち出して ta ti tu te to は同じ音韻だから t だけで良いというのは、どの外国人にも通用しません( ti をチ、tu をツと発音する国がありますか)。

エスペラントのような人工言語以外は、どの国にも例外があるでしょう。それから言えばローマ字はどの方式に決めても、日本語はこうなんだと言えば良いとも言えます。だから、ヘボン式が英語式だから非英語圏に通用しないと非難するのは当を得ません。

そこで、煮詰めて言えば
 @ 動詞の活用を教えるのに便利だから、発音は犠牲にして日本式(か訓令式)
 A 英語(その他の外国語も)を教えるのに便利だからヘボン式
のどちらをとるかと言うわけですが、動詞の活用などは、無理にローマ字を使う必要がなく、今まで通り、かなで教えたらいいので、Aにすべきです。
もう、こんな議論を長々するのは本当にいやになります。

小学校で主として訓令式ローマ字を教えられるため、日本人は発音の違いに鈍感となり、ティームをチーム、ティケットをチケット、トゥールをツール、トゥリーをツリーと書き、そう発音して平気なのです。正しく発音できないのではありません。
現に、正しく書かれたパーティ(party) は[パーチー]と言わず、ちゃんと[パーティ]と言えます。
訓令式や日本式を主張する人たちの多くはどうも、日本語は外来文字である漢字を多く 使っていて、その学習に時間が取られすぎるので、いっそ、漢字を廃止して (代わりに、やまとことばで言い換え、または造語して) ローマ字だけを使うようにしようという「日本語ローマ字化」運動をしている人たち のようです。

漢字を使わず、やまと言葉だけにするには(外来語などはカナで)、ローマ字よりひらがなの方が日本語には適しているのではないかと思います(短文の比較参照)。
”かな文”にするだけでは変わり映えせず、運動の迫力に欠けるため、外国との関係で 必ず使わざるを得ないローマ字を道連れにしているように思えます。
そして日本語を強制的にローマ字化すると、自動的に漢字廃止になるからでしょう。

そのとばっちりで、訓令式教育が続き、変な(不適切な)カタカナ外来語が増え、変な 日本人英語になり、綴りも間違え易くなるのです。

鈍感でない(多少とも発音を気にかける)人が訓令式ローマ字を見ると、
ワタスィタティワ、クンレイスィキローマズィヲミルト、ヘンナカンズィガスィマス
  (si) (ti)      (si)    (zi)          (zi) (si)
のように変な日本語と思うでしょう。学校で訓令式を教えるから、自動車の社名表示、
店の看板などにもよく使われています。

ヘボン式なら誰でも
ワタシタチワ、ヘボンシキローマジヲミテモ、ヘンナカンジガシマセン
と言う感じです。いろいろ混在しているのは、小学校の混乱した教育の結果です。

ヘボン式が絶対と言っているわけではありません。これは英語的表記法です。
万国共通で正確なのは国際音声記号しかありませんが、特殊文字を多く使わねばなりません。
その記号はHTMLでは網羅していないので、このページを書くに当たっても苦労しています。

他に最適なローマ字表記法がないので、共通語になりつつある英語を基準にしたヘボン式またはその改良型を採用するのが次善の策です。
訓令式は発音をごちゃ混ぜにするのに対し、ヘボン式は違う発音は別の表記にするという点でより良く、訓令式に類したものは絶対に排除したいと思います。
げんに、実社会ではパスポートの表記はヘボン式のみが基準となっています。


最近(2003年秋)、朝日新聞紙上(ウィークエンド−私の視点)で先生方の間でローマ字に関して論争がありました。

まず、
 「ローマ字学習  ヘボン式を導入しよう」 (2003.09.06)
という表題で、 公立中学校英語教諭が、(勝手に要約すると)

子ども達は、町中でほとんど使われていない訓令式を小学校で主に習ってきている。
英語学習にはヘボン式の方が、文字と音の関係(フォニックス)が分かるからよい。
英語学習とローマ字との関連に触れたものがほとんど見あたらないが、小学4年のローマ字が、ある意味で英語学習の原点とも考えられる。
ローマ字学習を国語という枠にとらわれずに、広く外国語学習に役立つ観点から見直すべき時期に来ている。

これに対し、
 「ローマ字  国語理解に訓令式が有効」 (2003.09.20)
という表題で公立小学校教員が反論。要旨は、

ローマ字学習を英語学習とのつながりだけでとらえるのは、大変狭い見方。国語学習の一環としてしっかり位置づけられている。
ローマ字はそもそも、アルファベットを単音文字として用いた日本語の表記法である。
訓令式は日本語の音節構造に最も適している。ta ti tu te to と書くことにより、仮名では見えにくい子音と母音の存在が浮き彫りになる。表記方法に例外がいくつもあるヘボン式を最初に教えたのでは、子どもは混乱してしまう。
「ヘボン式を」論は、英語教育優先の逆立ちした発想と述べている。但し、氏は、ヘボン式を全否定するのではなく、小学校での英語学習を推進するよりは、ヘボン式を含めたローマ字学習の充実により英語学習の充実を図るべきだとしている。

私の意見
 ◆◆ 国語学習という枠にとらわれている方が狭い見方ではないか。
子どもは国語だけを学習すればいいのではない。必ず英語も必要だ。先生の都合で国語だ、英語だと分け、別個の方針で教えられたら、子どもこそ大迷惑だ。

また、例外が多いヘボン式を最初に教えると、子ども達は混乱してしまうと言う。
それでは訓令式に続いてヘボン式を教えたら、よけい混乱するのでは?
ヘボン式をお添えもののように教えるから、義務教育を終えた大勢の大人までが混乱して、ヘボン式崩れの(間違った?)ローマ字看板が堂々と町中に溢れているのだ。
小学校教員は、訓令式ローマ字の使用で子音と母音の存在が浮き彫りになる、と述べているが、訓令式では子音は浮き彫りになるどころか誤魔化される。ヘボン式なら子音も正しく浮き彫りになる。5母音しかない日本語では、どの方式のローマ字も母音学習には役立たない。

小学教員とは逆だが、私はローマ字はヘボン式で正しく書けるだけで良いと思う。それ以上余分な時間はもったいない。
現在はローマ字教育がまともに出来ていないため、カタカナ外来語も正しく書けないばかりか、読むことすらまともに出来ない高学歴者も多い。
日本語のためにも、ローマ字を教えて母音、子音を認識させた時点で、現実の日本語発音のゆれをはっきり自覚させるべきではないか。

フランスではフランス語の発音、文法を国語教育の一環としてしっかり教えているという。
そもそも日本ではどの段階でそれらを教えているのだろう。私は少なくとも英語より前に、日本語の基礎ぐらいはしっかり教えるべきだと思う。それが英語学習にも役立つと思う。
最近、変な日本語が増えてきて、もはや後戻りできないぐらいに定着しつつある。例えば「私は彼女好きだ」は間違いで、「彼女好きだ」が正しいと高校で余談の中で習った(もはや両方が普及してしまって、そんなことを言っても、理解できない若者が多いと思う)。上記のような誤りは、一般に日本では、生まれて初めて習う文法が国文法でなく、中学で習う英文法なので、日本語も英文法に当てはめて考えてしまう結果ではないかと推測する。日本語発音に至っては、一般には生涯学ばないのではないだろうか。

他ページに
ベトナム少女の例をあげたが、彼女だけが日本語音を正しく聞き分け、逆に日本の子どもたちの方が日本語の発音に鈍感なのが浮き彫りになった。
これは、日本の子どもの能力が劣っているからではなく、教え方が悪いからだと思う。
日本語の発音も正確に理解できないような先生も欠陥日本語教育の被害者で、それがまた日本語の音の違いに鈍感な子供を作ってしまう悪循環となる。
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追記
読者の方からご指摘*があり、それをきっかけに日本式、訓令式などを調べなおしますと、日本式の範疇には入りますが、中途半端に発音に準拠するのでなく、発想を転換して『基本的には音にしたがいながらも、最終的には「カナ文字でどうかかれているか」にもとづく』方法が提案されていました。ご指摘頂いたのと逆方向の結論になってしまいますが、明快で合理的な面があり、運用次第では、ヘボン式に残っている不揃いも解決する可能性があると思います。また、パソコンのローマ字入力にもなじみやすいと思います。)

 但し、日本語の発音の揺らぎを誤魔化さず、ハッキリ教えるという条件付です

それは
 『日本ローマ字会の「99式」日本語のローマ字表記 』です。
  *読者の方からのご指摘は少し長くなりますので、そのやりとりは別に記載しました。

ヘボン式を採用出来ないのであれば、次善の策として、これらの新しいローマ字表記法により、近い将来ローマ字教育を中心とした混乱が収拾に向かい、しっかりした教育方針が樹立されることを期待したいところです。
ただ、趣旨が分かった上でこれを推進するのなら間違った方向に行かないと思いますが、 ji[ジ], di[ディ], zi[ズィ]程度の区別さえ分からない人が参加すれば、また迷走するのではないかと、余計な心配をしてしまいます。


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